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はじめに

本記事では、デジタルトレジャリーの実現において、中核となる財務リスク管理(金融商品管理:借入金、貸付金、有価証券、デリバティブ)に関する内容です(第5弾の財務リスク管理 後編は為替リスク管理を中心に説明します)。本記事は「SAP S/4HANAとFin Tech融合によるデジタルトレジャリーへの変革 全体概要編」の続きとなっており、全体像を把握頂いた上で読んでいただけるとより理解が深まるかと思います。また、デジタルトレジャリーへの変革シリーズとして、全体概要編の他にも、資金繰り管理編銀行管理編もご参照ください。

Treasury and Risk Management(以降TRM):財務リスク管理の概要

TRMでは、主に様々な金融商品管理を一元的に管理することが可能です。例えば、借入金、貸付金、定期預金、社債、株式、金利スワップ、通貨スワップ、為替予約等の一般事業会社で想定される金融商品を管理することが可能となっております。

TRMの特長は、約定から、コンファメーション、利払(受)、満期、評価、決済、複数会計基準に対応した会計自動仕訳生成、資金繰り自動連携等の一連の金融商品管理プロセスを一気通貫で自動化することが可能です(日本で必要となる、両端入り(落ち)、片端入り(落ち)などの金利計算にも対応しております)。

財務資金管理全体像
財務資金管理全体像

 

マネーマーケット(グループ内外の借入金、貸付金等)

マネーマーケットでは、借入金、貸付金、CP、シンジケートローン等といった金融商品を管理します。ターム・ノンタームローンも管理可能です。またグループ内の借入貸付に関しても対応しており、グループ会社のミラー取引を自動生成します。
TRMでは、約定登録、承認、利払(受)、会計仕訳転記、支払(入金)処理までを一気通貫で対応することが可能なため、SAP S/4HANA 内の総勘定元帳にも自動転記される仕組みとなっています。
また財務管理仕訳帳(補助元帳)から総勘定元帳へのドリルダウンも可能なため、各金融商品管理と総勘定元帳のデータ整合性も担保されております。

メニュータイル(Fiori)
メニュータイル(Fiori)
金融商品契約登録画面(借入金、貸付金等)
金融商品契約登録画面(借入金、貸付金等)
契約内容から自動的にキャッシュフローを生成(資金繰り連携)
契約内容から自動的にキャッシュフローを生成(資金繰り連携)
財務管理仕訳帳(補助元帳):財務管理仕訳帳の確認と、総勘定元帳へのドリルダウン
財務管理仕訳帳(補助元帳):財務管理仕訳帳の確認と、総勘定元帳へのドリルダウン
財務管理仕訳帳からドリルダウンした総勘定元帳仕訳画面
財務管理仕訳帳からドリルダウンした総勘定元帳仕訳画面

 

有価証券(社債、株式等)

有価証券では、株式、社債、債権といった様々な有価証券に対応することが可能です。銘柄登録、約定登録、承認、利(配当)払(受)、仕訳転記、支払(入金)処理までを一気通貫で対応することが可能です。また有価証券管理では、株式分割、株式スワップ、減資、増資、新株予約権等の資本変更に対応する機能も標準で提供されております。

有価証券口座管理
有価証券口座管理
有価証券購入登録(株式、債権、社債等の有価証券を登録)
有価証券購入登録(株式、債権、社債等の有価証券を登録)

 

デリバティブ

デリバティブに関しても、上記の金融商品同様に、専用の登録画面が用意されており、金利スワップ、通貨スワップ、通貨オプション等のデリバティブを登録することで、約定登録、承認、仕訳転記、支払(入金)処理までを一気通貫で対応することが可能です。

デリバティブ登録画面
デリバティブ登録画面

 

財務/資金ポジション分析

財務/資金ポジション分析では、リアルタイムにグループ全体のポジションの分析が可能です。会社別、金融商品別、IFRSやJGAAP等の各会計基準別にポジション状況を把握することも可能です。こちらの分析機能はSAP S/4HANA 共通で利用されている多軸分析機能となり、行・列に表示するデータを選択することで、様々な情報をレポートすることが可能です。そのため、紙の管理帳票を減らし、オンライン上で、様々なデータ形式にて出力することが可能です。

ここまで、金融商品管理の契約内容の登録機能を中心にご紹介してきましたが、業務プロセス自体もグループ全体で標準化できる仕組みとなっておりますので、グローバル統括会社、地域統括会社、個社で同様の仕組みでの業務処理、同一の情報源をもとにした意思決定を行うことが可能となっております。

SAP S/4HANA上で財務リスク管理機能を利用するメリット

業務オペレーションの効率化

銀行マスタ、銀行口座マスタ、取引先マスタ等のマスタ類がその他モジュールと統合されており、マスタ二重入力や、複数会計基準の各元帳へ自動転記されるため、約定、利受払、満期、決済時等にも、各種処理をTRM上で実施することで、総勘定元帳に自動記帳することが可能です。したがって、各取引と会計仕訳の整合性が担保された形でデータが管理可能。

グループ全体で財務取引業務の標準化・集約化(自動化)、最適な調達・運用の意思決定支援

SAP S/4HANA の財務資金管理機能では、金融商品管理や社内銀行(支払代行、マルチラテラルネッティング)といった仕組みにて、グループ全体で一元的に財務取引を管理することが可能なため、ファイナンストランスフォーメーションの大きなトピックとなり、グループ全体のオペレーションの標準化・集約化(自動化)、グループ全体での最適な調達・運用管理、金利リスク、為替リスクへの迅速な対応を実現するためのシステム基盤となります。

以上で、最新のSAP S/4HANAにて実現可能なデジタルトレジャリー 財務リスク管理編 前編をご紹介させていただきました。二十年以上前から欧米企業を中心に取り組みが行われてきたグローバルでの資金管理に関しても、日本企業におけるファイナンストランスフォーメーションの大きなトピックとして、単に個社での財務管理オペレーションの最適化だけではなく、グループ全体での財務管理オペレーション標準化・集約化、調達・運用の最適化、金利リスク、為替リスクへの迅速な対応といった、経営管理の高度化を目的にした、取り組みが増えてきました。さらに、直近では、為替リスク管理オペレーションをSAP S/4HANAとトレーディングプラットフォーム(FinTech)を自動連携することで、グループ全体の為替リスク管理業務の効率化を実現されるところまで進んできており、次回は、財務リスク管理編 後半として、SAP S/4HANAにおける最新の外国為替リスク管理に関してご紹介させていただきます。