日東電工 常務執行役員CIO大脇泰人 氏(右)とSAPジャパン 社長執行役員 鈴木洋史(左)

日東電工 常務執行役員CIO大脇泰人 氏(右)と
SAPジャパン 社長執行役員 鈴木洋史(左)

※撮影は感染対策を講じたうえで行いました

 

日東電工株式会社(以下、Nitto)は、1918年創立、連結売上高7,410億円(20年3月期)、連結従業員数28,000人を超えるグローバル企業です。世界28か国に92社のグループ企業を展開し、連結売上高の実に8割近くが海外市場です。グローバルシェアNo.1を目指すグローバルニッチトップ™戦略、各国・エリアの市場において特有のニーズに応じた製品を投入してトップシェアを狙うエリアニッチトップ®戦略を掲げる同社では、柔軟な事業戦略と強固な経営基盤が今後のさらなる成長に必要不可欠となります。SAP® Concur®やSAP® SuccessFactors®、SAP® Ariba®を中心としたSaaS型クラウドソリューションをグローバルに展開しており、SAP S/4HANA®やSAP® Fieldglass®の導入に向けた全社プロジェクトが進行中です。そこで、SAP® Japan Customer Award 2020で「Cloud Adoption」部門を受賞した同社の経営基盤を支える、SAPのクラウドソリューションのあり方を伺いました。


業績低迷による危機感からデジタル変革で経営基盤の再構築に着手

Nittoは、両面テープや電気・電子部品用テープ、タッチパネル関連製品、半導体関連製品などの製造を手がけています。エレクトロニクスや自動車、ライフサイエンスなど事業領域は広範囲にわたり、同社の製品の多くは私たちが健やかで便利な社会生活を送る上で欠かせないものです。拠点はアメリカ、ヨーロッパ、東アジア、東南アジア・オセアニアにまで広がっています。

同社は2014年に売上、利益ともに最高益の実績をあげるも、2015年にはエレクトロニクス業界に変調の兆しが生じ、その後一転して下降局面を迎えました。当時のことを振り返り、常務執行役員CIOの大脇泰人氏はこのように話します。

「経営トップダウンとして、全社業務改革プロジェクトを立ち上げました。既存の業務をゼロベースで見直すことを目的に、NittoのDNAである「無・減・代」を掲げ、構造改革を推し進めました。その一環が、デジタルを活用した改革。しかし、老朽化、複雑化した後進的な経営基盤が改革の足かせとなっていました」

当時、同社の業務およびシステムはともに個別最適が繰り返されていました。基幹系システムは各拠点や事業で統一されておらず、継ぎはぎでの利用が常態化。個別で保守運用を行っており、高コスト体質であったといいます。

同社はデジタル改革で経営基盤の再構築に着手。実現しようとしたことは以下の3点です。

  1. 「情報や知識の見える化」
    デジタルにより暗黙知化していた多様な情報や知識を形式知化し、散在した情報や知識の融合を元に新たな価値を創造。
  2. 「グループやグローバルでの業務品質および内部統制等の管理レベルの向上」
    同社は海外売上比率約8割のグローバル企業。当時、海外拠点では間接材料調達の方法が統一されておらず、無駄な支出を招いていた。その解決策としてデジタルによる標準化、見える化を図る。
  3. 「距離と時間を超え価値観を共有し、最新情報を元に意思決定する経営スタイルの達成」
    リアルタイムでさまざまな数字を把握し、距離と時間を問わずにコミュニケーションを行う基盤を構築。「尖った技術や文化、組織を活かし、世界の多くのステークホルダーの社会課題を解決していくためのデジタル改革。社内や市場のファクトを迅速に掴み組織に共有化することを目指した」(大脇氏)

 

ユーザー改革を“自分ごと”として捉えてもらえるように工夫

デジタル改革を強固な経営基盤の構築のための重要な取り組みと位置づけ、これまでの個別最適から全体最適を図る、グローバルレベルでのシステム構築を目指しました。そこで同社が選択したのがSaaS型クラウドソリューションでした。
クラウドに着目したのは以下のようなメリットがあったためです。

  1. 初期投資を抑えつつ短期間で高度な技術が導入可能
  2. 共通基盤でデータを可視化
  3. 機能やサービスのアップデートをタイムリーに享受
  4. 自社内でのシステム改修が不要
  5. 操業停止リスクを回避

多くのSaaS型クラウドソリューションが乱立している中、「SAP AribaやSAP Concur、SAP SuccessFactorsといった多様なソリューションを備え、グローバルレベルに展開可能であるのはSAPだった」(大脇氏)ことが、導入の決め手となりました。

しかし、大規模なSaaS型の業務システムを導入するにあたり、現場では大きな軋轢が生まれました。「現場では、業務に合わせてシステムを最適化するということが普通の感覚であったためです。ただ、SaaS型のシステム導入に関しては、業務を標準化していくことが重要となります。導入時は使いにくいという声も聞こえてきましたが、今ではグローバルスタンダードとして定着しています」(大脇氏)

また、導入効果を得ることにも、さまざまな壁があったといいます。

「“システム導入=即時に効果創出”との考えが強く、ユーザーの協力がなかなか得られませんでした。また、“見える化が改革につながる”というコンセプトの理解を得るのにも時間を要しました。そこで、ユーザーの意識改革を図るための施策を打ちました」(大脇氏)

それが、各部署のKPIデータをトップマネジメントから配信することです。例えばSAP Concurにおいては「KPIを部署ごとに設定・モニターし、達成度に応じて次年度予算へ反映する」といった厳しい措置も講じました。そうすることで、ユーザーに改革を“自分ごと”として捉えてもらえるようにしたといいます。

導入は順次進んでいきましたが、長年に渡り個別に最適化された機能が多く、標準機能の適用や業務の再検討に苦労したといいます。SAP Aribaでは、導入初年度は慣れないオペレーションのために効果を出せずにいました。しかし、導入2年目からは効果を数字で出せるようになり、ガバナンスにも目をみはる効果があったといいます。

日東電工株式会社 常務執行役員CIO 大脇泰人氏SAP Aribaの導入は6か月を期間ベースとして展開。日本は導入後2か月で旧システムを停止し、海外拠点は台湾・韓国・中国の合計9拠点で同時に導入を進めました。導入担当は現地メンバー主体で実行し、アドオンは国要件による商習慣対応以外は一切認めず、KPI評価は全拠点比較で明らかにする。そうすることで、支出実績や購入方法(請求書、SAP Ariba、カタログ)に応じた課金の考え方を統一させていきました。

一方、SAP SuccessFactorsの導入は人財本部と海外エリアメンバーにより、人員管理のほか、目標設定および評価業務のグローバル標準オペレーションモデルを設計。エリア特性を踏まえたカスタマイズは、これに反しない範囲で認め「トップダウンで進めたが、設計の柔軟性は持たせた」(大脇氏)といいます。

標準業務ツールを使う意味合いが社内で経験値として理解され始めた

トップダウンによるKPI運用という措置を講じつつ、ユーザーに“自分ごと”と認識してもらう。このような運用方法が機能し、同社ではさまざまな効果が出ています。SAP Concurでは「航空券料金を年間約1億円削減」「国内ホテル予約サイト連携による出張精算の手間削減」などがあります。

一方、SAP Aribaでは間接材の調達通過率が約3年間で40%上昇(独自調達を抑制するべくこのような指標を設けた。なお、SAP Ariba は2017年6月から稼働。当時の間接材の調達通過率は50%、2020年には90%に)。さらに、2019年と2020年にそれぞれ1億円/年のコスト削減効果がありました。そして、SAP Aribaは内部統制等の管理レベルの向上にも寄与しています。調達業務の不正検知が機能しているほか、不正内容の見える化が進んでいるからです。購買データ分析により制服のグローバル購入の在庫削減も進んでいるといいます。

SAP SuccessFactorsの導入では「管理職以上のタレント情報の充実化」「目標設定・評価制度の標準化」「人員数管理や離職率の人員管理業務の標準化により各種分析が可能」「グローバルでの要職ポジションへのサクセッションプランニング等のグローバルマネジメント」などが効果として現れています。

SAPクラウドソリューションのさまざまな効果を得た現在、新たにSAP Fieldglassの導入を進めています。SAP Fieldglassは外部要員の発見、管理、支払のためのクラウドソリューションです。今や外部リソースの活用は企業競争力を高めるための重要ファクター。同社では製造業務委託の管理をSAP Fieldglassを活用して強化する方針です。プロジェクトから導入、運用までの経験を経て、大脇氏はこのように語ります。

「“外部環境の影響を受けにくい強靭な企業体質を目指す”という基本方針のもと、ガバナンスの効いた、なおかつ柔軟でスピーディーな意思決定ができる経営基盤の構築に取り組んだところ、標準業務ツールを使う意味合いが社内で経験値として理解され始めました。よりいっそう不確実性の高まる将来において、常に“伸ばすもの・戻るもの・戻らないもの”を見極め、グローバルニッチトップ™戦略を主軸とした成長戦略と構造改革の両輪で、SAPを活用し得られたファクト情報を分析・共有した経営を推進したいですね」

 

今後の展望

現在、SAP S/4HANAの導入を進めています。業務およびシステム両面で標準化を推進し、グローバル統制を図るとともにトータルコストの削減を図る方針です。そのために必要なことは、システムを単に情報収集や見える化のツールとしてとらえるのではなく、情報分析から価値創造につなげるシステムに切り替えていくことです。そうすることで、データドリブンひいてはファクトベースから社会価値や企業価値を高められる経営を推進する視野が開けます。
デジタル変革は単独で成し遂げられるものではありません。最高のパートナーがいてこそ、最高の成果が得られるものです。大脇氏が語ります。

「今後もSAPジャパンとは良好な関係を築いていきたい。互いのさらなる成長に向けて継続的、積極的な提案および要望に対する前向きなレスポンスをお願いしたい。常にあらゆる業界に対して学ぶ姿勢や自らに対しても改革意識を持った対応を続けてほしい」

最後に、デジタル改革をトップダウンで成功に導くために必要なことを大脇氏に聞きました。

「全社トップダウンの重要性を高めるため、役員経営層のIT・デジタルへの関心とITメンバーのビジネスや業務に対する理解を深めることでしょう。そうすることで、グローバルでの全体把握から全体像を描けるようになり、目的と手段の混同を避け、投資対効果に対する責任を明確にしていくことができるはず。そして、役員経営層およびITメンバーに、IT・デジタルが経営・ビジネスへ与える意義や影響と投資対効果の共通認識を持たせるように努力することが重要と考えます」

高機能材料の製造・販売を中心に、創立100余年の歴史を有するNitto。引き続きSAPジャパンは、同社のデジタル改革を支えていきます。

 

日東電工株式会社 常務執行役員CIO大脇泰人 氏(右)とSAPジャパン 常務執行役員 宮田 伸一(左)

日東電工株式会社 常務執行役員CIO大脇泰人 氏(右)と
SAPジャパン 常務執行役員 宮田 伸一(左)