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SCMの最適化に取り組むライオン、SAP S/4HANA、SAP BPC、SAP IBPなどを組み合わせてシステム統合し、日々変化する事業環境に対応

サプライチェーンを取り巻く環境が大きく変化するなか、製造業や流通業はさらなるサプライチェーンマネジメント(SCM)の最適化に迫られています。消費財メーカー大手のライオンも、同様の課題を抱える1社です。同社はDXによる経営基盤強化策としてSAP S/4HANAを中心としたSAPソリューションを導入し、2022年5月より本格運用。データを可視化してリアルタイム経営の実現とともに、SCMの最適化や経営の高度化に取り組んでいます。

データの分断解消に向けて、一気通貫のシステム基盤の構築へ

1891年の創業以来、より良い習慣づくりで人々の毎日に貢献してきたライオン。現在、中長期経営戦略フレーム「Vision2030」の実現に向けた3カ年の中期経営計画「Vision2030 1st STAGE」(2022年~2024年)では、主要テーマの1つに「成長に向けた事業基盤への変革(SCM、DX、サステナビリティ)」を掲げています。

SCMやDXを推進するうえで見直しが必要となったのが、従来の基幹システムでした。1980年代~2000年代前半に構築した複数のシステムで構成され、個別に機能追加を重ねてきていた旧基幹システムでは損益に直結する業務が複数システムに分かれており、さらにSCMに関わるシステムは複数のシステムが複雑な連携をしていたため、組織横断的な変化への対応が難しい状況でした。これに危機感を抱いた同社は、ERPパッケージを導入して標準化したシステム基盤を構築し、リアルタイム経営を目指すことにしました。取締役兼上席執行役員の小林健二郎氏は次のように語ります。
「従来の基幹システムは、間違いのない、正確な決算ができることに主眼を置いていました。しかし、今後ますます機動的かつ柔軟性の高い経営が求められるため、一気通貫のシステム基盤を整備して業務スピードの向上を図ることにしました」

デリバリーの最初から最後まで伴走するSAP MaxAttentionを採用

ライオン株式会社
デジタル戦略部長
木下陽児氏

ERPパッケージには、グローバルスタンダードであり、既存の会計システムとして利用していたSAP ERPの実績などを評価してSAP S/4HANAを中心としたSAPソリューションを採用しました。SAP S/4HANAについてはプロジェクト初期の構想策定フェーズでFit to Standardの検証を実施し、高い適合率が見込めることから本格導入の決断に至っています。さらに、計画段階からプロジェクトの準備、導入、運用まで支援するSAPのサポートサービスSAP MaxAttentionを活用することにしました。
「それぞれのフェーズに応じて適切なアドバイスを受けられること、デリバリーの最初から最後まで伴走していただけることが決め手となりました」と、デジタル戦略部長の木下陽児氏は語ります。

業務改革(BPR)を目指して新システムをビッグバン導入

導入プロジェクトは2018年8月にスタートし、2022年5月に新システムが本稼働しました。SAP S/4HANAのモジュールは財務/管理会計、購買在庫、販売管理、生産管理、品質管理を採用し、さらにSAP Business Planning and Consolidation(SAP BPC)による経営計画、SAP Integrated Business Planning for Supply Chain(SAP IBP)によるS&OP計画(需給計画)、SAP BusinessObjectsによる照会・分析なども含めてビッグバン稼働を実現しています。
「プロジェクト側と業務部門の双方でリソース不足も発生しましたが、業務全体を俯瞰して改善できる社内人材の育成面においては大きな成果を得られました」(木下氏)
ライオンはプロジェクトの目的を業務改革(BPR)と定義し、主管部門として「BPR推進部」を新設。ITだけでなく、生産、販売、SCM等の各領域の業務に精通したメンバーを集めてプロジェクトを進めました。各業務部門で、稼働準備段階から部門長を業務プロセスオーナーとし、配下にビジネスプロセスリーダーなどのキーパーソンを配置するなど、新システム上で円滑に業務が実行できる体制を整えました。全社共通の商品需給・損益計画(ワンナンバー計画)に基づく事業運営(S&OP)の実現に向けて、事業部門には新たにワンナンバー推進担当部長を配置し、関係部門との協業のもとでサプライチェーン全体の最適化を進めていきました。
ただし、こうした変革は必ず痛みを伴うものであることから、プロジェクトには経営陣が全面的にコミットして指揮を執り、優先度を高く設定しながら関与してきました。
「現場では変化を強いられることに抵抗感はあったと思います。そこで経営トップが現場と直接コミュニケーションを取り、新システム導入の先にあるメリットを感じてもらうことで変化を浸透させていきました」(小林氏)

Fit to Standard方式とBPRの推進で、高い適合率を実現

開発にあたっては当初の方針どおり、システム標準機能に業務をあわせるFit to Standard方式でコストと開発期間を低減しました。プロジェクトメンバーと業務部門は何度も協議を重ね、総計67%の適合率で開発を完了しています。特に生産と会計領域はそれぞれ76%と高い適合率となり、生産領域ではこれまでできなかった詳細な実績データの投入も可能になりました。
デジタル戦略部 情報システムグループ マネジャーの土谷一郎氏は「Fit to Standardのアプローチのもと、全社、全部門、全業務で業務プロセスを変えるというミッションがありました。導入の各フェーズにおいてSAP MaxAttentionのチェンジマネジメントに対する豊富な経験や、パッケージメーカーとして機能を深く理解しているSAPのサポートは非常に効果的で、業務部門との調整では何度も壁にぶつかりましたが、その壁を扉に変えるような対応をしていただきました」と振り返ります。

業務プロセスの可視化により、個々の知見頼みから脱却

基幹システムの再構築と業務プロセスの標準化/スリム化により、鮮度の高い情報をもとに将来を予測できるシステム基盤が整備されました。マスタやデータを全社共通化して各部門・各業務での変換作業を解消したことで、稼働から6カ月後の月末在庫金額の実績値が最大で5%前後削減されるなど、目に見える効果も現れています。
また、社内の多くの業務プロセスが網羅的に可視化/文書化されたほか、製品在庫のロット管理範囲拡大によるトレーサビリティの向上や、実際原価計算における「みなし計上」の廃止による管理精度の向上などが実現しています。ライオンの執行役員で経理部長を務める竹生昭彦氏は「業務プロセスの可視化により、担当者個人の知見頼みから脱却し、担当者が変わっても同じプロセスが維持できるようになりました」と語ります。

「経営の今を見る」を目指し、経営陣も積極的に関与

今後はシステムの活用レベルを高め、主目的としているSCMの最適化と経営管理の高度化を実現していく計画です。今回のシステム導入はDXの起点であり、これからはシステムを使いこなして目的を実現していくことが重要になります。そこで2023年1月には従来組織の統合システム部、DX推進部、BPR推進部を統合した「デジタル戦略部」を新設し、デジタル戦略による企業変革(CX)をより強力に推進しています。DXとCXは同義であり、全体としてデジタル分野の実力を高めていく必要があると実感している同社は、SAP S/4HANAを中心としたシステム基盤を「攻めのIT」として競争優位実現のために最大限使いこなしていきたいと考えています。
「経営陣の我々もSAP S/4HANAを活用して経営の見える化を進め、有意義な議論になるようにデータを使いこなしていきます。これから先は事業ポートフォリオの組み替えや、サプライチェーンの連携を進めていかなければビジネスプロセスは変わりません。SAPには引き続き、ビジネスプロセス全体を変える可能性の拡大に期待しています」(小林氏)

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