「現場を変える、会社を変える、未来が変わる。~Future-Proof Your Business~」をテーマに、9 月 22 日に The Okura Tokyo で開催された SAP ジャパンの年次カンファレンス「 SAP NOW Japan 」。4 年ぶりのリアル開催となった当日の基調講演では、不確実な時代に直面する現在、企業が抱えるさまざまな経営課題に対して、SAP がどのような支援を提供できるのかについて、SAP Asia Pacific Japan のプレジデントを務めるポール・マリオット、および SAP ジャパン株式会社 代表取締役社長の鈴木洋史から最新の戦略が紹介されました。また基調講演の後半では、経済学者で一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏をお招きし、「 2040 年の日本」と題して、日本の現状分析と未来予測、労働生産性の低さを解消するための方策についてお話しいただきました。本稿ではその模様を 2 回にわたってお伝えします。
「生成 AI 」など、次の 20 年を支える SAP のイノベーション
最初に登壇したのはポール・マリオットです。20 年にわたって日本のマーケットを見つめてきたマリオットは、「次の 20 年に向けて、SAP は日本企業がさらにビジネスのレベルを高めていくためのサポートを全力で提供します」と来場者に呼びかけ、今年 5 月の SAP Sapphire で発表された SAP の 3 つのイノベーションについて紹介しました。
1 つめのイノベーションは「Business AI(生成 AI )」です。マリオットは「 AI は SAP にとって決して新しいものではありません」と話し、すでに SAP のビジネスプラットフォームには最新の AI が組み込まれていることを強調。その上で、生成 AI に対する SAP の考え方を次のように説明しました。
それは、① AI がもたらすイノベーションを今後も SAP のプラットフォーム上に組み込んでいくこと、②ビジネスプロセスに関する独自の知見を生かし、AI からさらなるインパクトを生み出していくこと、③プライバシーやデータに関する規制を遵守し、ビジネス上のコンプライアンスを徹底していくことの 3 つです。
5 月に開催された SAP Sapphire では、AI に関する新たな 15 の機能、Microsoft、Google、IBM との連携、SAP のベンチャーファンドが行う AI のスタートアップコミュニティへの大規模な投資といった取り組みが発表されました。「 AI は組織としての仕事のやり方を、根本的かつ劇的に変えていくことになるでしょう」とマリオットは期待を込めました。
2 つめのイノベーションである「 Green Ledger(グリーン元帳)」について、マリオットは「これは ERP(Enterprise Resource Planning)の Resource の部分に、カーボン( CO2 )の管理を組み込んでいくものです」とわかりやすく説明しました。
企業の財務報告書は、何よりも精度の高さが求められる企業活動全般に関する公的なレポートです。その中にあってグリーン元帳は、CO2 の排出量など ESG (環境・社会・ガバナンス)の取り組みにおける重要な指標を、ERP システムの中でリアルタイムに管理するものです。これにより、ESG 投資で求められるサステナビリティレポートの重要性を、財務報告書と同様のレベルに引き上げていくことを目指しています。
3 つめの「 Business Networks for Industry(ビジネスネットワーク for インダストリー)」は、組織内のプロセスの自動化にとどまらず、サプライチェーンのレジリエンスや可視性の向上、業界に特化したコラボレーションを支援するものです。
そして、マリオットは「すでにグローバルでは SAP Business Network 上で 4.5 兆米ドル相当の取引が行われています。このネットワークを引き続き拡充し、日本、アジア、そして世界中のサプライヤーと連携しながら、イノベーションを加速させていきます」と今後の展望を語りました。
新たなロードマップで未来に向けてお客様と伴走
さらにマリオットは、これら3つのイノベーションを企業が自らのビジネスにどのように活かし、独自の戦略に基づく成果につなげていくかについても言及しました。
「私たちは常にお客様を中心に据え、そのニーズ、ビジネス目標、どのような KPI に対して価値を提供できるかを考え続けています。私たちが提唱するロードマップは、皆様が目指す道のりを伴走できるものでなければいけません」
マリオットは自らが率いるチームの中で、常に「 First Use 」「 Full Use 」「 Future Use 」という 3 つの言葉を意識し、SAP の技術が未来の創造に貢献していくためにはどうすべきかを議論しているといいます。まず、First Use で SAP の技術を試してみる。続いて、Full Use で投資価値を最大化するためにすべての機能を活用する。そして Future Use では、SAP のロードマップを踏まえて、将来どのようなケイパビリティが必要となるのかを考えるということです。
「日本企業がグローバルマーケットにおけるプレゼンスを高めていくためには、よりアジャイルなアプローチでイノベーションを推進していかなければならないと考えています。皆様が目指す未来に私たちもご一緒できるなら、これ以上の光栄はありません」(マリオット)
クラウドへの積極的な投資を通じた SAP の原点回帰
マリオットに続いて登壇した SAP ジャパンの鈴木は、SAP が今後もクラウド投資に注力していくことを明言した上で、その理由をオンプレミス製品時代からの歴史を振り返りながら説明しました。
「今年で創業から 51 年を迎える SAP の原点は、パッケージソフトウエアにあります。これは可能なかぎり共通化したプログラムを提供することでスケールメリットを生み出し、同時に新たな機能を低コストで利用できる画期的なモデルでした」
しかし、売り切り型のオンプレミス製品の時代には、共通化された豊富な機能の一方で、ソフトウエアが稼働するインフラや保守要員はユーザー企業が用意しなければならず、スケーラビリティの観点でまだ課題のある状態にとどまっていました。さらに、業界や個々の企業特有のニーズに合わせたアドオンが行われた結果、新機能の利活用が進まず、共通プログラムのメリットを十分に享受できない状況が続いていました。
鈴木は「こうした状況に大きな転機をもたらしたのがクラウドです」と強調します。パッケージソフトウエアの機能をクラウド上で提供することで、これまでユーザー企業側で負担していたインフラの保守運用などは SAP が行うようになり、スケーラビリティが飛躍的に高まりました。また、新機能も自動的に追加されるため、適用するタイミングを判断するだけで、いつでも利用できるようになりました。
「クラウドの普及によって真の共通化が可能になり、SAP はまさに原点に回帰することができたということです。もちろん、ソフトウエアの設定だけでお客様のニーズに 100 % 対応できるわけではありません。ただ、現在の機能の充足率が 80 %であったとしても、並行して業務の標準化を進めることで、その割合を高めていくことができます」(鈴木)
世界の状況を見渡すと、日本は必ずしも豊かな国とは言えなくなっている現実があります。2022 年の日本の平均給与は 4 万 1,509 米ドル( USドル、購買力平価ベース)、これは OECD 加盟国 37 カ国の中で 25 位、G7 では最下位の水準です。アメリカの平均給与は日本の 1.87 倍、ドイツは 1.42 倍です。この現実に対して、鈴木は「その原因の 1 つは、日本の労働生産性の低さにあるのではないでしょうか。そして、その背景には日本企業の業務に対する強いこだわりがあると感じています」と問題提起を行いました。
ただし、SAP が提供する標準機能を世界中の企業が利用するようになれば、これらはすべて非競争領域の業務となります。鈴木は「重要なのは、標準機能を徹底的にご活用いただくことで現場の手間を省き、そこで生まれる余剰時間を本来の競争領域に振り向けることです。これにより、日本の課題である労働生産性の向上を必ず実現できると私は確信しています。SAP が提供する最大の価値は、まさにそこにあります」と話し、自身のセッションを締めくくりました。
※基調講演の後編はこちらをご覧ください
2040年の日本-現状と未来予測 日本経済の回復に向けた方策とは?ーSAP NOW Japan 基調講演レポート Vol.2 –