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中長期的に日本国内の市場の縮小が見込まれる中、成長と拡大を続けるアジア、ASEAN、欧米市場への進出を急ピッチで進める日本企業が増えています。企業のビジネスパートナーとして、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)事業等を展開するトランスコスモス株式会社もその1社です。同社は経営管理の高度化に向けてSAP S/4HANA® Cloud Public Editionの会計モジュールを米国、中国、マレーシアの3地域の海外子会社に先行導入。新システムを活用して意思決定の精度向上、月次等決算早期化、業務効率化、統制レベルの向上などにつなげていく考えです。

 

 

毎年10%以上拡大する海外ビジネスの経営管理を高度化

トランスコスモスはDX、コールセンター、デジタルマーケティング、ECワンストップサービス、BPO、アナリティクスなど、企業向けのITアウトソーシングサービス等を提供しています。日本国内に71拠点、海外にも中国、韓国、ASEAN各国、米国、ヨーロッパなど26の国と地域に93拠点を持ち、グローバルにサービスを展開しています。近年は東アジア、東南アジアの事業成長が著しく、2023年3月期で海外売上高は939億円(前期比 +115億円、+14.0%)に達し、海外売上高比率は2022年3月期の23.2%から25.1%に拡大しています。

 

これまで、各海外子会社は事業領域、設立時期、経緯などが異なることもあって、それぞれ異なる会計システムを利用していました。本社は各海外子会社から会計レポートを収集していましたが、情報の粒度にばらつきがあり、集計に時間と手間がかかるうえ、各海外子会社の決算の情報を正確に把握することが難しく、このことが経営判断に影響を与えるリスクとして懸念されました。そこで同社は情報の一元管理に向け、海外子会社の会計システム統合を決定。本社管理総括 海外関係会社経営管理本部 副本部長の李盛氏は次のように語ります。

「海外事業を拡大し、毎年10%以上の成長を続ける中で、事業にあわせてスケールしていくには、経営管理の高度化が必要不可欠です。そこで海外子会社のデータを一元管理し、リアルタイムで情報を把握し、意思決定の迅速化と精度向上を目指しました」

 

 

グローバルスタンダードとしてSAPを採用し3つの地域に先行導入

同社は、インフラ運用の負荷軽減を念頭にクラウドベースのERPパッケージを検討した中からSAP S/4HANA Cloud Public Editionを米国、中国、マレーシアの3つの拠点に先行導入することを決定。SAPのコンサルティングサービスの支援を受け、2022年10月にプロジェクトを開始しました。

「グローバルスタンダードな製品であることが決め手となりました。海外拠点を持つお客様に対して、SAPブランドをアピールすることで信頼感にもつながります。SAPコンサルティングサービスを採用したのは、営業担当やコンサルタントとの会話を通して得られた信頼感です。失敗できないプロジェクトを進めるうえで、製品をよく知り、高いスキルを持つSAPに導入を任せるのがベストと判断しました」(李氏)

 

多数の拠点のなかから先行導入を決めた3拠点は、事業規模、提供サービス、地域特性で選んだといいます。先行導入の中国拠点は30年以上の歴史がある大規模拠点で、現行システムの運用が20年以上続いていました。さらにシステム開発事業まで行う拠点であることから最初の導入拠点として適切であるという判断をしました。マレーシア拠点の事業は中国拠点がカバーしていない業務も含まれるため、両者で全体をカバーできます。米国拠点は小規模ながら幅広い業務をカバーする一方、比較的新しく、業務フローの整備が十分でない拠点であるとして選ばれました。

 

 

3地域共通のワークショップやセッションでFit to Standardを徹底

同社はパッケージ標準に業務プロセスを合わせるFit to Standardを前提に、3地域共通でSAPコンサルタントからワークショップやセッションを受け、業務プロセスの整備を進めました。米国拠点への導入でプロジェクトオーナーを務めた本社管理統括 海外関係会社経営管理本部 SAP推進部 欧米課 課長の南考宣氏は次のように語ります。

「セッションでは、Fit to Standardや各種設定方法について説明を受け、それをもとに業務フロー図の作成、勘定科目の設定、マスターのマッピングなどを進めていきました。最初は現地担当者も戸惑いがありましたが、回数を重ねていくうちに納得し、協力的に進むようになりました。米国の場合、売上税の設定、科目の設定やマッピングに苦労しましたが、これまで可視化されていなかった業務フローについてFit to Standardのもとフロー図を作成したり、マスターと紐付けたりする作業が業務に役立ちました」

 

一方、事業規模が大きく、歴史も長い中国拠点は業務プロセスの整理とデータの整理に苦労したといいます。中国拠点への導入でプロジェクトオーナーを務めた本社管理統括 海外関係会社経営管理本部 SAP推進部 中国台湾課 シニアマネジャーの范文涛氏は次のように語ります。

「中国の現地には9名の会計担当者がいて、それぞれの守備範囲が決まっているため、社内調整で全体の業務フローを整理していく必要がありました。データの整理についても、データの属性の整備に時間をかけました。勘定科目についてもSAP S/4HANA Cloudでは、取引先のサプライヤーやクライアントがすべて“ビジネスパートナー”に統一されるため、どうやって変換するかも議論しました。現場からは多くの科目をSAPに取り込みたいと要望がありましたが、システムの特性を理解してもらいながら、どのように科目を変換するかを議論しながら進めました」

 

SAPコンサルタントの支援に対して、南氏は「タイトなスケジュールの中、初期段階のセッションをしっかり準備していただけて助かりました。録画も必要な時に見返すことができました」と語ります。范氏はワークショップ終了後の実現化フェーズに入った後のフォロー体制を評価し、「定例会やタスク管理ツールを通じて、こまめな進捗確認やQA対応をいただきました。ちょっとした質問にも迅速に回答いただき、必要に応じて会議で確認できたことも助かりました。現地(中国)のトランスコスモスのメンバーも積極的にプロジェクトに協力してくれました。そのような密なコミュニケーションがあったからこそ、我々の提案から最終的な合意に至るまで現地との調整がスムーズに進み、とても助かりました」と語ります。

 

 

リアルタイムデータに基づく迅速な意思決定を実現

新たな会計システムは米国で2023年4月、中国とマレーシアは同年6月に本稼働しました。現在は既存システムとの並行稼働中で、整合性を確認し、ユーザーの習熟度が高まってきた段階で一本化する計画です。

 

期待効果の1つは、意思決定情報の精度向上です。統一された正確な数字をもとに、迅速な意思決定ができるようになります。

「例えば、事業単位で利益が出そうなユニットに対する戦略の強化や、国単位で利益を比較して課題がある国には適切な手を打つことが可能になると予想しています。また、取引先ごとに利益を把握して、利益の最大化を期待できることも管理会計上のメリットになります」(李氏)

 

また、本社から子会社の会計情報を直接参照するなど、月次決算および本決算の子会社から本社への報告期間を早期化し、将来の会計基準等の変更や改廃への対応も可能になる見込みです。子会社が作成したレポートの集計も不要になり、業務効率の向上とコスト軽減、業務品質や統制レベルの向上も期待できます。

「業務効率化によって、現地の会計管理のスタッフが付加価値の高い業務に集中できるうえ、モチベーション向上や既存メンバーの能力向上も期待できます」(李氏)

 

現場レベルでは、業務フローが可視化されて作業の中身やデータの流れをすべての会計担当者が把握できるようになり、属人化が解消されました。

「結果として、休みをとった社員の業務のカバーや検算作業の短縮なども実現しました。単独の決算期間や、本社に提出するレポートの作成時間も短縮されています」(南氏)

 

中国拠点においても債権債務の管理業務、原価計算の自動化などが実現し、ミスの削減と業務の効率化につながっています。

「債権債務はこれまで担当者がExcel台帳で管理していたため、属人化が課題でした。現在はFit to Standardで標準化され、手作業も減っています。システム開発の事業で発生する原価計算についても、担当者によるExcelベースの手計算から、SAP S/4HANA Cloudによる自動計算に置き換えられました」(范氏)

 

 

31の海外子会社や国内にも横展開を検討

現在はデータ分析力の強化に向けて、SAPコンサルティングサービスのもとでSAP Analytics Cloudの導入が進行中です。将来的には経営層にも可視化した情報を提供して、よりタイムリーな経営判断が可能となる環境にしていく考えです。

 

さらにSAP S/4HANA Cloud Public Editionを横展開していく方針のもと、最終的には31社への導入を想定しています。先行稼働した3拠点においては、費用対効果を勘案しながら販売管理や購買管理のモジュール追加も視野に入れ、要件の整理に着手しています。

 

基幹システムのグローバル統合に乗り出したトランスコスモス。同社におけるSAPシステムの活用は、経営管理のさらなる高度化に貢献していくことになります。

 

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