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SAP S/4HANAとFinTech融合による、デジタルトレジャリーへの変革 第6弾 次世代ペイメントファクトリー編

フィーチャー

はじめに

本記事では、デジタルトレジャリーの実現の中でもグループ企業の支払業務の一元化を支援する次世代ペイメントファクトリーソリューションの全体像、および関連製品であるSAP Advanced Payment Management, SAP In-House Bankingについてそれぞれご紹介させていただきます。本記事は「SAP S/4HANAとFin Tech融合によるデジタルトレジャリーへの変革 全体概要編」の続編となっておりますので、全体像を把握頂いた上でお読みいただけるとより理解が深まるかと思います。また、デジタルトレジャリーへの変革シリーズとして、全体概要編の他にも、銀行管理編資金繰り管理編財務リスク管理編前編財務リスク管理編後編(為替リスク管理)も併せてご参照ください。

目次

  • ペイメントファクトリーとは
  • SAP S/4HANAを活用した次世代ペイメントファクトリーの実現
  • おわりに

ペイメントファクトリーとは

グローバルトレジャリーの実現においては、これまでのブログシリーズの中でも触れさせていただきましたが、「資金管理業務の高度化」や「財務リスク管理の一元化」が重要な施策となっています。地域や個社毎に管理、運用されていた財務資金管理業務をグループ内の本社、および資金統括会社に統合を行うことで、「資金調達・運用業務の最適化」、「財務リスクの軽減」、「取引手数料等決済コスト低減」の実現を行うことが可能です。その一方で、昨今ではグローバル企業の海外売上比率の拡大や決済手段の増加に伴い、国内外問わず企業グループ内外の取引先との取引ボリュームが増加しており、グローバルレベルでの決済業務の裏には、主に海外における取引の不透明性、およびそれに付随する不正会計等オペレーショナルリスクの増加、取引ボリュームの増加に伴う口座維持や決済手数料の増加、さらには決済手段の増加による業務オペレーションの属人化、サイロ化といった様々な課題が浮き彫りとなっています。こういった企業グループ内外での決済業務に関連する課題を解決し、業務プロセスの集約化、高度化を実現する手法としてペイメントファクトリーという仕組みがあります。ペイメントファクトリーの中では、資金統括会社が企業グループ内外における支払業務を一元的に行い、グループ全社の支払情報の集約を行います。これにより、グローバルレベルでの支払業務の見える化、および効率化を実現し、グループ企業におけるオペレーショナルリスクの最小化に寄与することが可能になります。ここからはSAPソリューションを活用した次世代ペイメントファクトリーの製品コンセプト、製品概要についてご紹介させていただきます。また、日本のグローバル企業におけるSAPソリューションを活用した取り組み事例であるソニーグループ財務システムプロジェクト (SAP S/4HANAを活用した財務システムプロジェクトが『Global Finance』誌の「Best Company in the World for Foreign Exchange Management award」を受賞) についても併せてご参照ください。

SAP S/4HANAを活用した次世代ペイメントファクトリーの実現

SAPのこれまでの取り組み

 
SAPでも従来より、「グループ間資金決済の効率化」の文脈でSAP In-House Cashというソリューションを提供しています。SAP In-House Cashでは、社内銀行管理ソリューションとして、グループ会社内、または外部取引先との取引において、グループ会社の実口座からお金を動かすのではなく、社内銀行に設定した仮想的な口座を利用して取引決済を行います。この際、会計処理上は、資金統括会社とグループ会社の「お金の貸し/借り」の仕訳計上が行われます。具体的な業務プロセスとしては、資金統括会社にて一元的にグループ会社間の取引決済を実施するマルチラテラルネッティング、グループ会社の外部取引先への決済業務を資金統括会社が一元的に実施する支払代行、外部取引先からの入金業務を資金統括会社が一元的に代行する回収代行を提供しており、それら業務プロセスをSAP S/4HANA上で実現することが可能です。また、SAP In-House Cashでは、入出金明細・残高管理、普通金利や当座貸越金利等に基づいた金利計算を行い、決済、資本化処理の実施等グループ内における社内銀行ソリューションとして様々な機能を取り揃えています。SAP In-House Cashの活用によって、外部銀行口座数、取引手数料といった取引コストの削減を実現し、「グループ間資金決済の効率化」を行うことが可能です。

次世代ペイメントファクトリーの実現

近年では、SAP In-House Cashによる「グループ間資金決済の効率化」に加え、「グループ内支払統制」および「グループ内支払プロセスの標準化」を支援する次世代ペイメントファクトリーの実現に向けて、SAP Advanced Payment Management、SAP In-House Bankingをリリースしました。SAP In-House Cashにて提供されていた従来からの社内銀行管理機能の提供だけでなく、グループ内(SAP、Non-SAP問わず)における支払業務の集約化を実現するためのマルチソース対応や支払データのフォーマット変換、さらにはSAP S/4HANAにて提供されている財務会計、資金管理、不正リスク管理といった周辺コンポーネントや外部金融機関とのシステム連携を強化し、1つのプラットフォーム上でグループ資金決済の効率化だけでなく、支払業務の集約化や効率化を含めて実現することが可能になりました。

ここで非常に重要となるポイントとして、SAPでは1つのプラットフォーム上でグループ企業の支払データの集中管理、決済処理の集約化や金融機関への送信にいたるまで、ワンストップでの業務オペレーションを実現できるということです。これにより、財務管理オペレーションの標準化や高度化を実現するだけでなく、デジタルトレジャリーの変革支援を行うプラットフォームとしてSAP S/4HANAをご活用いただくことが可能です。ここからはペイメントファクトリーを実現するSAPソリューションである、SAP Advanced Payment Management、SAP In-House Bankingに焦点を当てて機能をご紹介します。

SAP Advanced Payment Management

SAP Advanced Payment Managementは次世代ペイメントファクトリーの実現の中核を担うソリューションとなっており、グループ企業内における支払集中管理のコンセプトで提供されている製品となります。SAP Advanced Payment Managementでは、SAP Multi-Bank Connectivity経由(マルチバンク接続用途での国内向けサービスについては現在準備中:2023年7月時点)やマニュアル登録等の方法でグループ会社のソースシステムに依存せずSAP S/4HANA上に支払データを連携させることが可能です。SAP Advanced Payment Managementに連携されたグループ会社の支払データについては、データフォーマット変換、および例外ハンドリング、検証/バリデーションを実施することで、国、地域や商習慣に依存せず支払データの一元管理が可能となります。また、資金統括会社の統制ルールに従った振込元口座の変換(ルーティング処理)の実施や外部金融機関への連携前のワークフロー機能についても標準で提供されており、グループ企業における支払統制、および業務標準化を実現することが可能です。

SAP In-House Banking

 
前述にもお伝えした通り、SAPでは社内銀行管理ソリューションとしてSAP In-House Cashを従来より提供していました。SAP In-House Cashでは、マルチラテラルネッティングや支払代行、回収代行といった処理を財務会計モジュールと連携しながらSAP ERPやSAP S/4HANA内にて実現できるという活用ポイントがあった一方で、IDOC形式での支払ファイル連携やSAP GUIベースでのUI提供等ユーザビリティの観点で様々な改善の余地があったのも事実でした。

 
SAPでは更なる財務管理オペレーションの高度化、効率化、ひいては次世代ペイメントファクトリーの実現に向けてSAP Advanced Payment Managementのアーキテクチャに統合する形で次世代の社内銀行機能としてSAP In-House Bankingを2022年にリリースしました。従来からSAP In-House Cashにて提供されていたマルチラテラルネッティング、支払代行、回収代行といった業務プロセスのサポートはもちろんのこと、各種業務処理を行うための画面を最新UIであるSAP Fioriにて提供を行っています。また、SAP Advanced Payment Managementのアーキテクチャに社内銀行管理機能が統合されることにより、SAP Multi-Bank Connectivityを経由したデータ連携の強化や財務会計、資金管理コンポーネントといった周辺関連モジュールとの連携も強化され、シームレスかつワンストップでの社内銀行管理をSAP S/4HANA上で実現することが可能です。

 
SAPでは次世代ペイメントファクトリーの実現を支援するために今後も更なる業務機能や分析ダッシュボード、レポートの追加提供、UI強化等含めて様々な機能拡張が予定されています。これらSAP Advanced Payment Management, SAP In-House Bankingに関する将来の機能拡張予定に関してはSAP Road Map Explorerから詳細をご確認いただけます。

おわりに

今回は、SAPの次世代ペイメントファクトリーのコンセプト、および関連するソリューションであるSAP Advanced Payment Management、SAP In-House Bankingの概要についてご紹介させていただきました。SAPではこれまでもグローバルトレジャリーの実現に向けて先進技術を駆使した様々なソリューション、サービスを提供してきました。今回ご紹介した次世代ペイメントファクトリーソリューションもグループ全体での財務管理オペレーションの高度化や効率化を実現するための仕組みとなっています。これらのソリューションの活用によって、経営環境が劇的に変化する昨今のビジネスシーンにおいても現状抱えている課題だけでなく今後起こりえるリスクに対して柔軟かつ迅速に1つのプラットフォーム上で対応することが可能になります。次回は、オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドといったハイブリッドなシステムランドスケープにおいてグローバルトレジャリーマネージメントを実現するトレジャリーワークステーションの最新情報についてご紹介させていただきます。